温泉が動脈硬化を予防?…千人超の健診結果を分析
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読売新聞 2016.06.25 UPDATE
日常的に温泉に入浴する人は、動脈硬化につながる脂質異常症(高脂血症)になりにくい可能性があるという調査結果が、早坂信哉・東京都市大学人間科学部教授の研究で得られた。
日常的に温泉に入浴する人は,動脈硬化につながる脂質異常症になりにくい可能性がある,という調査結果を紹介した記事です.
日本は温泉大国ですし,温泉入浴の健康効果が証明されればうれしい限りです.ただ,この記事(調査)のみからは,判断が難しいのが現状です.私は温泉の専門家ではありませんが,このような疫学調査の結果を解釈する際の留意点についてコメントさせていただきます.
まず,記事から判断すると,温泉入浴の有無と脂質異常(コレステロール値等)が同時に調査されているようです.このような研究デザインを横断研究と呼びます.この研究デザインでは,いわゆる「鶏が先か,卵が先か」と同じ状況で,温泉に入るから脂質異常が少ないのか,脂質異常でない人(健康な人)ほど温泉に入るのかは判断できません.したがって,記事の見出しにあるような,日常的な温泉入浴→脂質異常症(高脂血症)になりにくい,という方向性すら判断できないことになります.
次に,日常的に温泉に入る人は一般的に健康意識が高く,脂質異常症と関連する他の生活習慣(食生活や運動,喫煙など)が好ましい傾向にある可能性があります.記事からは判断できませんが,その点が分析の段階で考慮されていたかも重要な視点です.もし考慮されていないと,温泉入浴の特殊な健康効果ではなく,ただ健康な生活習慣を有する人だっただけ,という可能性を否定できません.
さらに,この調査では「週に1回以上温泉に入浴する習慣の有無」が調査されていたようですが,温泉入浴の習慣をもう少し細かく調査されていたら,より説得性のある主張につながったかもしれません.例えば,週1回未満,週1回,週2回以上のように聞いていると,血中脂質との間に階段状の関係があるか否かが判断できます.このように階段状になるか否かを容量反応性と呼びます.
最後に,この記事は一般に厳しい審査を経ない学会発表に基づいているので,専門家による審査(査読)を経て,学術論文として発表されると情報の信頼性がさらに高まってくるでしょう.
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