今村文昭

ケンブリッジ大学医学部 MRC疫学ユニット

バターについて議論が熱いという記事・・・コメントしたいと思います。
結論から述べると、タイトルを含め、この記事はあまり良いとは言えません。

この記事は２人の専門家のコメントから始まっています。M氏は「バターは良くも悪くもない」、W氏は「バターは良くない」と述べておりバターが善玉という見解は全く述べられていません。従って記事のタイトルはただ誤解を生み得る内容とは全く関係ないもので不適切です。

ではそのコメントの内容について述べたいと思います。M氏は通常考えられうる、太りも痩せもしない食生活の範疇でバターの摂取が心臓の病気と関係しているかを疫学的に検証し、特筆すべきような関係がみられなかったため、良いか悪いか言えないと言っています。一方、W氏は、バターはカロリー過多を引き起こしやすく栄養価も低いので摂取するのよくないと言っています。

これはどちらも正論です。統合すると、バターを摂取しても問題はないが、摂り過ぎたらダメということです。（当たり前のようですが、それをきっちり数字で示すのも研究の大切な役割です。また普通の食生活でも、たとえば塩分を摂りすぎたら血圧が上がるように、バターにはなんらかの悪影響があるかもしれません。それを検証するのも大切です。）

またM氏は「良くも悪くもない」と言っていますが、注意すべき点は「バターは食べても問題ないので気にせず食べましょう」とは言っていないことです。

一般的に、バターを含む脂質の類は、エビデンスに基づいて植物性油脂（安全なマーガリンやオリーブ油）に代えることが推奨されています。これについてはM氏の意見は書かれていません。

またW氏の「良くない」という意見は「現状の推奨内容を変える必要はない」という意味です。これは原文の英語を読めばわかります。"I am not about to make a huge shift in the recommendations ..." （https://medlineplus.gov/news/fullstory_159629.html）

M氏は「研究で示した内容」について述べていますが、W氏は「推奨すべき内容」について述べています。この２点は大きく違い並列には扱えません。しかし、ウェブの記事は、「研究で示した内容」と「推奨すべき内容」を混同して論じています。（ちなみに英語の文章も正確に訳されていません。M氏より直接、日本人からインタビューを受けていないことを確認しました。）

あたかもM氏とW氏の意見が相反しているような内容とし、論点の違いを明確にせず、しかも論争が巻き起こっているかのように述べ引用元を明記しないこの記事は、誤解を与えかねない為、私としてはどなたにもなるべく読んでほしくありません。