痩せるだけじゃない!? 米国発MINDダイエットが認知症予防に効く
- 4,149
- 6
- 0
日経Gooday(グッデイ) 2016.12.12 UPDATE
厚生労働省は2015年1月に、10年後の2025年には認知症の高齢者が700万人(5人に1人)になるとする推計値を示しました。日本の行政の対策も急務ではありますが、米国では認知症を予防できるという食事法に注目が集まっています。
通常、Health Nudgeでは編集部の方が記事のタイトルをリストしてくださり、専門家がそのリストからコメントする記事を選びます(専門家が自主的にウェブ上の記事を選ぶことも可能)。この記事を選んだのは、栄養疫学関係であることと、タイトルから問題があるからでした。
記事を開いてみたところ、前回と記事を執筆した方が同じでした。意図的にこの方の記事を選んでいるわけではないことを記しておきます。
この記事では、MINDダイエットという食事がアルツハイマー病の予防に役に立つのではということを述べています。その内容についてはまず2点述べたいと思います。
1.
まずきっかけとなったタイトルについて、「痩せるだけじゃない!? 」とありますが、これは痩せる効果があることを前提にした表現です。MINDダイエットが痩せるのに役に立つという実証はありません。明らかに誤解を生むタイトル、あるいは「痩せること」を餌に読者を釣る意図が潜んでいるようで、好ましいものではありません。疑問符を付けて断定をしていないところもまた非常にいやらしいです。
メディアの記事には疑問符つきのタイトルも多いのですが、そういったものには特に記事の質に疑いを持ったほうがよいでしょう。私の経験則で申し訳ないですが、小賢しい書き方をしている可能性が高いです。
そして次の点で述べるように、「予防に効く」という表現も誤りです。
2、
前回、私が書いたコメント(http://healthnudge.jp/11623)と内容が重複しますが、この記事でも相関関係から因果関係を臭わせています。例えば、
「厳密にMINDダイエットを行った人は、アルツハイマー病のリスクが53%も低下し、適度に行った人でも35%低下したのです。」
ともともとの論文の結果を紹介しています。しかし、「リスクが低下した」という表現は誤りです。ある個人個人がMINDダイエットによりリスクを下げたかどうかは検証されていないからです。
より正しく書くなら、
「厳密にMINDダイエットに近い食事をしている人は、全然してない人と比較して、アルツハイマー病のリスクが約半分だった。」
という表現になります。
因果関係を強調してはならない内容にも関わらず、そのタブーを犯した記事となります。これでは科学的に基づいた記事とはいえません。その姿勢が記事全体に現れており、この記事を読んだ人には違和感を抱いて頂きたいです。
ただここでさらに述べたいのは、もともとの論文もその点ではNGであることです。細かくは述べませんが、もとの研究論文でも、その論文を発表したRush大学の広報(日本語の記事にも紹介されています)でも、あたかもMINDダイエットがアルツハイマー病のリスクを下げる効果があるように書かれています。
日本語の記事で欧米の研究を紹介する際、英語の論文や記事が元となることは多いと思います。この記事は、その根源もよろしくないという例です。
残念ながら、医学界でも「傾向」や「相関」を検討し、やたらと「効果」をうたったりする論文が多くなっています。今回のようなアルツハイマー病の専門誌など、特定の疾患の研究に限ったマイナーな雑誌に多い傾向のように思います。科学界の問題点でしょう。
最後にメジャーなダイエット2種についても述べられていますが、簡単にコメントします。
・記事にはDASHダイエットも紹介されています。「政府支援で研究者たちが生み出したDASHダイエット」とありますが、政府支援というのは語弊があります。研究費が国から出ただけで通常の医学研究と一緒です。これも「政府支援のもと」という枕詞を付すことで説得力を誇張しているようで、私としては嫌な印象を抱いてしまいます。
・地中海ダイエットの描写も適当ではありません。クレタ島の例があげられていますが、地中海ダイエットといっても実際はスペインからギリシャまで多様です。たとえば、「乳製品は控える」とありますが、ギリシャのヨーグルトやチーズなど考えて頂ければ一義的に定められないことが判ると思います。
記事が5ページに渡り長い分、複数の問題が散在しています。この記事に限らず、ウェブ上の記事ですので常に疑う事を前提に読むのがよいでしょう。
送信完了
いいね!しているユーザー一覧
コメント編集
この著者による他の記事
アクセスランキング
この記事へのコメント