今村文昭

ケンブリッジ大学医学部 MRC疫学ユニット

この記事についてここでは次の３点について述べたいと思います。Health Nudgeでのコメントとしては例外的に長くなってしまいましたが参考にしてもらえれば幸いです。
○アンケート結果について
○糖質vsカロリー という問いについて
○山田医師の論文について

○ある一定の人が「糖質制限を支持する」という回答を得ています。面白い試みだと思います。

エビデンスの良し悪しはこうしたアンケートでは判断できないのは当然なのでその点は要注意です。またどのように回答者を選んだのか気になりますね。下に記したように可能性として「糖質制限を支持する」と答えた人でも「カロリー制限を支持する」と考えているかもしれません。その点も注意しましょう。

○糖質vsカロリー という問いについて

この対立の構図がまず的を射ていません。研究する内容と実際に推奨する内容が異なり得るのを理解するのがまず大切です。

栄養学研究では、「糖質を制限する」という効果を見るとき、「総カロリーの摂取を制限せずに」糖質を制限する研究を行います。なぜなら糖質を制限し、さらに総カロリーも制限すると、糖質制限の効果をみているのかカロリー制限の効果を見ているのかわからなくなるからです。課題の１つ１つを混同せずに解決するために、的を絞った研究をデザインし検証します。

しかし実際には糖質制限とカロリー制限とを同時に行うことが可能です。血糖コントロールや体重など何を検討するかによって判断が異なりますし、糖質の具体的な内容やカロリー制限の方法・工夫、指導の仕方などの議論が必要ですが、極端なものではなければどちらも良い効果があります。

ですので糖質制限vsカロリー制限という構図を設ける必要は全くありません。

またこの点について記事では「専門家である医師のあいだで意見が対立」とありますが、専門家である医師といっても専門が幅広くさまざまなので意見がばらつくのは当然のことです。また医師でも管理栄養士でも誰もが栄養学に通じ、エビデンスの良し悪しを判断できるわけではありません。こうした類のエビデンスを適切に評価できる専門家の間での意見の対立は私の知る限りありません。

○１ページ目に糖尿病ガイドラインに山田医師の論文が引用されなかったとしています。ガイドラインでは科学的根拠を示す論文をどのように選んでいるか詳細が不明なので私も同様に思っています。それについては別の投稿で述べたいと思います。

山田医師の研究はおそらくYamada et al., Intern Med 2014（実施は2012年）です。この研究では２４人の糖尿病患者を対象にしており非常に小規模です。残念ながら、ガイドラインを考える際に小規模すぎるという判断があって引用されなくてもおかしくありません。また栄養指導に従う程度が比較された群で異なるのでこの研究では「指導に従った人」と「指導に従わなかった人」の比較にもなっています（論文著者もその点を問題視しています）。「従いやすさ」はもちろん重要ですが、本当に食事の内容に関する効果を見ているのかわからないという欠点があります。

こうした問題点が考慮され論文が引用されない･･ということはよくあります。糖尿病のガイドラインではそのあたりの判断基準の透明性が向上すればと思っています。

以上です。
発売されるという雑誌についても読んでコメントする機会を見つけたいと思っています。