糖尿病診療ガイドライン2016
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一般社団法人 日本糖尿病学会 2018.01.12 UPDATE
「糖尿病診療ガイドライン2016」 国内外の最新エビデンスを反映した診療ガイドライン。臨床現場での利便性を高めるため、Clinical Question(CQ)方式を採用。新規治療薬や新たな診療機器の登場等、飛躍的な進歩を遂げる糖尿病診療を網羅し、また糖尿病性腎症病期分類や妊娠中の糖代謝異常と診断基準の統一化、高齢者糖尿病の血糖コントロール目標値の検討といった新知見も盛り込んでいる。わが国の糖尿病診療におけるEBM実践の指針であり、糖尿病患者に関わるすべての医療者必携の一冊。(南江堂ウェブサイトより)
「糖尿病診療ガイドライン2016」には「食事療法」のセクションがあります。別の記事で述べたことに関連(http://healthnudge.jp/12150)しその内容に関して懸念する1点を述べたいと思います。
このガイドラインは科学的根拠に基づく(Evidence-based)ものとされているのですが、その根拠を示す論文をどのように選んでいるのか説明の詳細がありません。
昨今、科学的根拠に基づいているとし新聞記事や専門家の意見などが多く発表されています。その中でよくある悪例が、数多くのエビデンスがある中、持論に沿ったものだけを都合よく引用して「科学的根拠に基づいている」という類です。信頼に値しないのがわかると思います。
今回のガイドラインでそんな例はありませんが、食事療法に関して、そのエビデンスの選択の過程が明白ではありません。通常、医学界では次の内容を明示することが求められます。
1.ガイドラインに有用とする論文を選ぶのにどのような基準を事前に設けたか
2.どのデータベースを使いどんなキーワードを使い論文を検索したか
3.検索結果はどうだったか
4.どの論文がその抄録(短いまとめ)を読んだ段階で選択基準を満たすと判断できたか
5.最終的にどの論文を有用とみなし、どの論文を除外したか(除外した理由はなぜか)
しかしこうした過程が不明瞭です。そして実際の内容にも不十分なところが多いと私は考えています(具体的に述べるととっても長くなってしまうので避けますが・・)。程度の違いはあるにせよ、同領域の文献に詳しい方は納得できないことも多いのではないでしょうか。今後はどんな専門家が読んでも必要な情報にたどり着けるよう書籍とウェブサイトとをうまく利用してより包括的で具体的な情報を期待したいと思います。
以上です。
おまけとして論文の引用について疑問の思った箇所の2例を次にあげます。議論する内容や結論の是非は問わずとも文献の選択、精査と紹介が包括的でないことがわかります。
例1)食品摂取により血糖値が上がる程度を「グリセミック指数(GI)」といいます。このGIと糖尿病を発症するリスクと関係がないとガイドラインでは述べています(食事療法のセクション44ページ)。この記載は2013年に発表された8カ国の研究に関する論文を引用していますが、2014年に発表されたより系統的に既存のエビデンスをまとめた研究ではGIおよびその指数に炭水化物摂取量を掛けた「グリセミックロード(GL)」が高いほど(つまり血糖値が高くなりやすい食習慣があるほど)、糖尿病を患うリスクが高いという傾向が示されています(SN Bhupathiraju et al., Am J Clin Nutr, 2014)。
例2)ガイドラインでは炭水化物摂取量を下げる事の血糖管理能への効果について2012年の論文(2010年までの栄養学的な論文をまとめたもの)を引用し否定的な姿勢を示しています(42ページ)。しかしそれ以降に発表された論文が考慮されていません。2013年に発表された複数の臨床研究をまとめた論文ではその効果が示唆されています(Ajala et al., Am J Clin Nutr, 2013)(ちなみにダイエット・減量への効果は示されていません)。
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