HPVワクチン 「子宮頸がん前に有効」中立組織が見解

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favicons?domain=mainichi 毎日新聞 2018.05.17 UPDATE

健康被害の訴えが相次いで積極的な接種の呼び掛けが中止されているHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンについて、非営利組織コクラン(本部・英国)は9日、さまざまな臨床試験の評価結果として「子宮頸(けい)がんの前段階の予防効果には高い確実性がある」との見解を公表した。・・

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今村文昭

ケンブリッジ大学医学部 MRC疫学ユニット

この記事にある次の2点について述べたいと思います。
1.「 長期間追跡してがんを防ぐ効果まで確認した試験はなかった。」
2.「深刻な副反応は接種群、非接種群とも約7% で差がなかった。 」

1.
日本人の子宮頸部にがんを患う率は
年間で 10万人あたり40人弱と推定されています(注1)。
低いながらもヒト・パピローマウィルスの感染を予防できれば
その疾患の多くを未然に防ぎ、出産できなくなるというリスクも
低減させることができると考えられています。

ワクチン接種の臨床試験において、
国ごと、研究ごとに違いはあるにしても 、
こうした低いリスクの疾患について有意な予防効果を見出すには
数万人の女性を対象にして数年にわたって経過をみても人数・年月は足りません。
さらに予防効果があるとなるとこのリスクはもっと下がり、
予防効果の検証がもっと困難になります。
 
そんな背景もあり、この記事の基となった論文では、
子宮頸がんを含めがんの発症は検証できていません。
ですので「HPVワクチンにはがん抑制の効果がないんだ」
という判断はここではできません。

一方で、この記事にあるように、 同じ論文において、
悪性腫瘍と呼べる前と状況と考えられている
細胞の異常(注2)を予防する効果、および
ウィルス感染の予防については強いエビデンスが得られています。
 
2.
まず「副反応」という表記が不適切と言ってよいでしょう。

「深刻な副反応が7%」という数字は高すぎます。
今現在、多くの国々で女性だけでも年間一億人を超える人たちが
HPVワクチンを接種しています。
そんな中、7% に深刻な副反応などありえません。

「副反応」というとワクチン接種への「反応」という意味になってしまいます。
しかし7%という数は、ワクチン接種をした研究参加者でも、
比較対照となった研究参加者でもどちらに属しようと
何らかの有害事象を被った人たちの数に基づいています。

基となった研究によって定義が異なる点がやっかいなのですが
たとえば傷害事故(事件?)、交通事故なども含まれます。
そして出産時の流産なども含まれます。
(研究参加者が20代、 30代前後の女性であるケースが多く、
さらに欧米諸国のみならず、中南米、東南アジアの国々でも
臨床研究が実施されおり社会背景が様々な点は要注意です。)

研究の性質上、どんな事態であれ
ワクチンに由来するかもしれないという慎重なアプローチに基づき
深刻であればなんでも数に含もうという背景があります。
従って7%がワクチンに由来する「深刻な副反応」 とするのは不適切です。
そのあたり記事は誤解を生む表現をしているといえるでしょう。
(ただし記事のもととなった「中立組織」の論文でも
その有害事象に関する詳細が記載されておらず
不親切ではないかと私は考えています。)

ということで、7%という数字を真に受けることは避けましょう。

また記事の最下部に専門家のコメントのとおり、
実際の副反応のリスクは非常に低く
継続調査も必要という意見は的を射ていると思います。

 
<><><> 
 
注1)
国立がんセンターがん情報サービス
子宮頸がん https://ganjoho.jp/public/ cancer/cervix_uteri/index.html
がん統計 https://ganjoho.jp/reg_stat/ statistics/stat/summary.html

注2)
「子宮頸部上皮内腫瘍」
知っておきたいがんの基礎知識「3.がんの種類と名称」
https://ganjoho.jp/public/dia_ tre/knowledge/basic.html

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この記事へのコメント

  • 【2018年6月8日】

    「薬害オンブズパーソン会議」がHPVワクチンのコクランレビューに対する「批判的見解」を発表しました。

    同レビューの問題点を網羅的具体的に指摘し、論文の著者たちやプレスリリース記事の中で唯一コメントが紹介されていた婦人科腫瘍医のCOIにも切り込んだ内容となっています。

    http://www.yakugai.gr.jp/topics/file/cochrane_review_hihanteki_kenkai20180607.pdf

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  • 「疑問が拭えません」と書いた理由を少し書きます。

    プレスリリースの記事は、HPVワクチン接種を推進している産婦人科学会や小児科学会などが「有効性は高く、副作用リスクはない」の根拠としてWHOのワクチンの安全性に関するグローバル諮問委員会(GACVS)の声明等を頻繁に引用する構図と重なっています。さらに、記事ではHPVワクチンを推奨する一婦人科腫瘍医のコメントしか紹介引用していません。

    同じコクラングループのひとつであるコクランノルディックのグループからは既に昨年、レビュー対象が重なる臨床試験について、コントロール群に使われているアルミニウムアジュバントによるHPVワクチンの副反応リスクの不透明化・隠蔽の問題点を強く指摘するレビューが発表されています。

    http://cochranelibrary-wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD012805/full

    COI(利益相反)からの独立を大きな理念、目標に掲げるコクランが何故、ビッグファーマとの利益相反が指摘されているWHOの見解やHPVワクチンを推奨する一婦人腫瘍科医のコメント“だけ”を紹介し、上述した同じコクラングループのレビューを取り上げて紹介しないのでしょうか。

    レビュー本文の「serious adverse events」を「serious side effects」とミスリードされやすい表現に書き換え、ほぼHPVワクチン推奨一色になっているプレスリリース記事は、「中立組織」を自負するコクランの理念と矛盾しないと言えるでしょうか。

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  • 有害事象(adverse events)と副作用(side effects)の書き換え問題については、コクランジャパンが「プレスリリース日本語版」の文末注釈で、以下のような説明を追加しています。

    『注:副作用について、問い合わせがありました。プレスリリースの本文では serious side effects と表現されており、プレスリリース日本語版では重篤な副作用と翻訳しておりますが、サマリーやレビュー本文では serious adverse events とされており、基本的には他癌での死亡などワクチン接種と因果関係が証明されていない重大な有害事象もすべて含んだ事例であります。』

    以上のとおり、サマリーやレビュー本文にある「serious adverse events」をプレスリリース記事の中で「serious side effects」と書き換えたのはコクランであり、それによる混乱や「HPVワクチンには深刻な副作用リスクはない」というミスリードを広げてしまった責任も最終的にはコクラン側にあると言えます。

    意味の異なる二つの用語をコクランは何故、プレスリリース記事の中で書き換えたのでしょうか?
    プレスリリース記事を書いた執筆者が二つの用語の意味を混同していたとはちょっと考え難いです。そこには意図的なものがあったのではという疑問が拭えません。

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