よく考えよう地域包括ケア 誰の利益になる仕組か
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ロハス・メディカル 2015.08.27 UPDATE
(2015年8月号 ロハス・メディカルより) 医療・介護・福祉の業界で「地域包括ケア」を実現するための試行錯誤が、大変な勢いで始まっています。でも、少し立ち止まって考えてみませんか、と言いたいです。 この仕組み、誰の利益になるのでしょう。国民の皆さんにも、危機感を共有していただけたら幸いです。
「住み慣れた場所で最後まで生活できる」ようにするために、おおむね30分程度の移動範囲で必要な医療や介護、福祉などのサービスが賄われるように地域のサービスを見直し、必要な連携をする「しくみ」を作りましょう、というのが「地域包括ケア」のコンセプトです。
まだあまり周知されていない言葉ですが、確実に将来の、特に私たちの老後の生活にかかわってくる大きな「流れ」ですので、この記事が示すように一人ひとりがもっと意識して、議論が深まることが求められます。
病院で死にたい人、家で死にたい人、(家族の負担にならないように)死ぬ前に施設に入り、施設で看取ってほしい人など、人々の持っているケアに対する希望は様々で、その希望も、その人が置かれた状況(家族関係や経済状況など)に左右され、うつろいやすいものです。
重要なのは、安寧に一生を終えられる環境整備がされていることですね。そのために、客観的な情報により地域の各種サービスのニーズの分布を継続的に把握し、需要予測をして、資源量を適正に配置していく、そのための組織間連携と各組織の機能強化・改善を図る、というのが地域包括ケアシステムの作りこみには必要かなと思います。
「コーポレート・ガバナンス」なんて言葉が例の家具屋さんの親子げんかで話題になりましたが、地域包括ケアは地域における保健医療のガバナンス、いわばコミュニティ・ヘルスケア・ガバナンスへの挑戦だな、などと思います。
厚生労働省は、そのような地域のニーズをまず「見える化」する仕組みとして、「地域包括ケア見える化システム」というサービスの提供を本年度正式にリリースしました。全国の自治体から集められた介護・医療・福祉等に関するデータをまとめ、自治体職員自らがウェブ上のツールを操作し、分析することで、地域のニーズを把握する「地域診断」を支援するサービスです(http://mieruka.mhlw.go.jp/)。このような情報基盤を自治体職員がどれだけうまく使いこなせるか、それを国や都道府県などがどれだけサポートできるかが問われてくるでしょう。
地域創世会議による「東京からの高齢者の移住の推進」のアイデアも、特に地域包括ケアのアイデアとコンフリクトするものではないと思います。移住した先で「住み慣れ」ればいいのですから。そういう新しい住人への受け皿を用意することも、地域包括ケアシステムに求められる要件でしょう。
とはいえ、移住先の農村地域で都会人が「うまくやる」に東海人が溶け込むのは結構難しく、多くの課題を抱えていることは事実です。都市にいるより、地方に行った方がその人にとってもメリットがあり、それが受け入れ先の地域の人材などの資源活用にもつながるというwin-winな関係になるような制度の「作りこみ」が必要です。
地域創世会議からの「東京人移住計画」の発表は、大きな反響を呼び、半ば「炎上」のような状況になりましたが、「それくらい日本の社会保障や保健医療の状況は切羽詰まっている。手を打たないといけない」というメッセージの強い投げかけになったという意味ではよかったのではないかと思います。
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近藤尚己
東京大学 大学院医学系研究科 健康教育・社会学分野 保健社会行動学分野 准教授 医師 社会疫学者
厚生労働省による地域包括ケアの定義や説明はこちら:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/
エリアとしては、「概ね30分以内に必要なケアが提供される範囲」を日常生活圏域と定め、その範囲でシステムを作っていくことを目指しています。多くの自治体で、おおむね公立中学校の通学範囲の区分け(中学校区)が当てはまります。
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