家屋の改善に伴う身体的・精神的健康の状態: ゴーウェル調査からの検証(原著表題: Physical and mental health outcomes following housing improvements: evidence from the GoWell stud)
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Journal of Epidemiology and Community Health 2015.08.31 UPDATE
(イギリス・グラスゴー大学Curlらの調査、Journal of Epidemiology and Community Health 2015年69号より 日本語で概要を要約) イギリスのグラスゴーという都市の中の15の貧困地域で1933世帯の家屋の改善と、5年後(2006年から2011年)の身体的・精神的健康状態との関連を調べた研究です。 家屋の改善は、1)セントラルヒーティング、2)セキュリティーの高いドア、3)建材・屋根・アスベスト・ベランダ・基礎構造等, 4)台所と風呂トイレのうち1か所ないし2か所の組み合わせが行われました。 建材等の改善はは1-2年後の身体的・精神的健康の改善と関連し、台所とトイレ・風呂は1-2年後以降の精神的健康の改善と関連していました。セントラルヒーティングは身体的健康の悪化と関連し、セキュリティーの高いドアは1年未満の精神的健康の増進と関連していました。
英国では、社会経済的地位の高い人の健康が低い人の健康より良い傾向にある「健康格差」問題の原因の一つとして、居住家屋の良し悪しが挙げられています。先進国のように衣食住がこと足りている社会において、物質的な充足度の違いが健康度と関連する度合いは少なくなったと考えられている一方で、家屋の暖房や湿気などの状況は依然として健康と関連すると報告している論文もあるされています。
この研究は、家屋の改善と身体的・精神的健康の変化に注目したもので、おもしろい研究だと思いました。筆者らによると、セントラルヒーティングは身体的健康を悪化させましたが、建材等の改善は身体的健康を、台所と風呂トイレは精神的健康を促進しました。結果を更に時間に沿ってみてみると、台所と風呂トイレは2年後以降に精神的な健康を促進していることもわかりました。セントラルヒーティングが身体的健康を悪化したことについて、工事の際の不便さや、実際に設置された器具の不十分さ等の理由が考えられるとも述べています。更に、これらによる健康増進効果は比較的小さく、雇用に就くことの方がはるかに効果的であることが報告されています。
健康格差問題について考えるとき、家屋の質は物質的側面から考えた時に大切な要素だと思ってきました。しかし、この論文の著者らによると、家屋改善による健康効果については、論文ごとにいろいろで、必ずしも一様に健康を促進するとも言い切れないようです。今回、むしろ悪化した身体的健康については、「健康」の測定の仕方にも問題があった可能性があるとも述べられています。今後の研究成果を見守っていきたいところです。
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Goro Hirano
英語の要約が専門外の私には訳が判らないので、訳していただきどうもありがとうございます。貧困地域の方々にとり、やはりドアが頑丈になると安心でき精神的健康によかった、ということでしょうか。治安の良い日本に住んでいると実感がありませんが。イギリスも相対的には治安が非常に良いと思うのですが、グラスゴーは産業経済的に多少デトロイトのような傾向があるのでしょうか。安全はマズローの欲求段階説でも基本的なものですので、いかに私たち日本人が恵まれているか感謝しなければいけませんね。 私の意味の取り違えでないとすると、西側・先進国からは強権・独裁と責められる国々のリーダーたちが、厳しい治安対策を行い、その国の中では貧しい人々から感謝され支持されるのも、よく理解できます。
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Jack Motoyama
先日 日立製作所のソーシャルイノベーションフォーラムで奈良県立医科大学の細井学長が、2006年から大和ハウスの寄付講座で住居医学研究講座を開いていると言っていました。
住居環境は地域性があるのでこのような英国での研究結果がグローバルで当てはまるか不明です。
日本での理想の健康的な住宅とは何か、だれかが科学的に提唱してくれたらいいですね。
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